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「お前らに名乗る程、安かないよ」
冷たく言い放つ影は、男二人を見据えていた。ただ、黒い頭巾を頭全体に被り表情は分からない。
「喜太兄貴と弥七様に何の用があるってんだ! 顔くらい見せろ、馬鹿野郎っ」
「だから、お前らに見せる程、安かないよ。御尋ね者さん」
「っ!……黒の着物……もしや……いや、あれは迷信……」
喜太は思い出したように言うと、青ざめた。
「…………黒蝶……」
「そう、その通り。
肥後藩脱藩の浪人喜太と弥七、お前らの悪逆非道は沙汰されている。江戸人を偽り、名を使い横暴を働き、金は払わないとな」
「何で知ってるんだ、喜太兄貴と俺の事。黒蝶って何だ? 辻斬りかィ?」
弥七は届かぬ相手に食い掛かる。
「弥七、聞いた事はねぇか? ……島原で悪行した輩は黒い蝶に食われ、二度と浮世を歩けないって話……京の夜を徘徊し制裁を下す……」
「嶋原始末屋、通称黒蝶。
京都守護から逃げられても、島原の日常を崩す奴は自分が許さない。
制裁を下し……始末する!」
「始末屋だか知らねぇが、この弥七が征伐してやらァ」
ヒュンッ――
弥七がそう言うやいなや、巨大な薙刀を頭の上に軽く持ち上げ、勢い良く旋回させる。
(跳べ、黒蝶)
タンッと草履で瓦屋根を蹴ると飛んだ。
下を見れば抜刀する弥七と逃げ腰の喜太の姿が見えた。
(馬鹿な奴)
「おいっ、あいつ何で……空を飛んでやがる」
「風の力か……そうだ、風だ! 薙刀を振り回す風の圧で飛んでるんだ!」
そう、薙刀を高速で旋回させる事により生じる風圧で一定の時間だけ宙を飛ぶ。
この姿が舞うように見えるのが蝶の由縁。

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