11人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の唯一の楽しみ。
立ち寄った画材店の棚に並べられた油絵具を吟味するこの時間。
気になる色のキャップを開けて、その彩りを確かめる。
カンバスのせられたその絵の具がどんな輝きを放つのか…その瞬間をイメージして胸が高鳴るんだ。
それは「恋」なのかも知れない。
今夜もカンバス生地と「恋」した絵の具を買い込んで、小雨が降る夜の街へ歩き始める。
♪♪♪…。
不意に携帯が鳴った。
画材を小脇に抱えて、画面に表示された名前を確かめる。
美郷…だ。
僕の唯一の親友。
バイトも休みだし、今夜はゆっくり創作に没頭したかったのに。
「もしもし…。」
「テル?今から遊びに行って良い?」
少し、鼻声。
また彼氏と何かあったのかなぁ。
嫌だなぁ…また徹夜で愚痴を聞かされるに違いない。
仕方なくタクシーを呼び止めてオンボロアパートへと急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!