キャベツと旅人

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砂漠の太陽光が、ある一人の若い旅人を照らしつけていた。 食料も底を突き、焼き殺さんばかりの暑さで視界もバターかチーズかのように溶け、旅人は今にも力尽きそうにフラフラと前へ歩を進めていた。だがソレも限界に近付き、うつむくと過去の事がスライド・ショーのように映像として蘇ってきた。――走馬灯というヤツだろうか。生まれ育った村の、草木が青々と茂った美しい情景、よく遊んだ友人の顔、そのいくつもの記憶の中に、一際目立つ映像が一つあった。旅に出るきっかけの記憶である。   旅人の生まれ育った村はキャベツの名産地で、村人は皆年中キャベツばかりを食べていてキャベツしか食べた事が無かった。キャベツ炒め、キャベツの漬け物にキャベツの煮物。村の食べ物はキャベツばかりで、まだ若く、好奇心も食欲も旺盛な旅人は心底飽き飽きしてしまっていた。そんな時、色々な地域の食べ物を食べて回っているという料理人が村を訪れた。その料理人曰く、 「この村から遥か南の砂漠にある村では、世にも不思議な食べ物がある。それはもう素晴らしく美味しかった」 との事である。旅人は持て余していた好奇心と食欲の全てをその話に向けた。   そして、それからすぐに砂漠にあるという村の場所を調べて旅の準備をし、今に至るわけである。
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