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頭の中で記憶の再生が終わり、ふと前を向いた。するとその先には、微かに村らしき影が見えていた。まだまだ気が遠くなる程の距離があるように見えたが、旅人はお構いなしに残りの力をふり絞って走った。
やっとの事で着いたその村で、一杯の水を貰うと、すぐさま村長がいるらしい屋敷へ向かった。村には旅人を大切に扱う風習があるらしく、「自分は旅の者で、ここの村長に用があって北の村からはるばるやってきた」という旨を伝えるなり、すぐに部屋へ通してもらえた。村長への挨拶もそこそこに本題の、料理についての話を切り出すと
「この村の名物料理の事ですか。そりゃあ喜んで振る舞いますとも!」
と言って奥に引っ込んで行った。
「あんなに大変だった砂漠の旅の終わりが、こんなにもあっけないものだとは」
と感慨に浸っていると
「お待たせして申し訳ない」
と本当に申し訳なさそうに言いながら村長が戻ってきた。十分もかかってないのに手には大きな盆をかかえている。
「これが、当村自慢の名物料理です」
そう言って出てきたのはキャベツ炒め、キャベツの漬け物にキャベツの煮物。キャベツ料理のオンパレードだった。
「こ、これは……?」
と半ば放心した風に旅人が聞くと、村長は得意気に
「これが砂漠でも元気に育つ、不思議なキャベツ料理のフルコースです」
と言った。
旅人は大いに落胆して自分の村に帰り、その後は村から出る事なくキャベツだけを食べて生涯を終えたという。
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