序章

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 少年が近付いて行くにつれて、集団の真ん中からは少女とおぼしき高い声と、落ち着いた男の声とが言い争うのが聞こえてきた。 「離せ! 離さんか無礼者!」 「お嬢様! どうか、どうかお気をお鎮め下さい。我々とて、好きでこうしている訳では……」 「五月蝿い! お前らなぞ、そこらの悪漢と何も変わらないではないか!」 どうやら内輪揉めのようだ。と内心で呟くと、少年は叫んでいる少女を一目見ようと、その集団の横を擦れ違うようにして通り過ぎ……ようとしたのだが。 「おい、そこの銀髪! 私を助けろ! こいつらは私を娼館に売り飛ばすつもりなのだ!」 「へ? 僕? ってわぁっ!?」 いきなり呼ばれた少年は、何がなんだか判らないままに呆けた声を出した。 そして、いつの間にか集団の隙間から抜け出していた、先程自分に向かい助けろと叫んだ少女の手によってこちらの手を掴まれ、唐突に集団から逃走する形になっていた。 「あれ? なんで僕、こんな事に?」 走り初めて、広場を抜けて大通りに入ったところで、少年は誰にともなくそう呟いた。
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