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深夜の交差点――
土砂降りの雨の中、真一は傘も差さずに立っていた。
もはやスーツも革靴も雨を十二分に含んで、ずっしりと重たくなっている。辺りには人影もなく、通る車も疎らで、地面を叩く雨の音だけが寂しく響いていた。
(どうして死んでしまったんだ…。俺を一人置いて…)
真一は数ヶ月前に最愛の彼女を交通事故で亡くした。
彼女のお腹には、まだ芽生えたばかりの小さな命が宿っていた。
(年が明けたら結婚しようと約束したのに…。それなのに…)
どれくらい泣いただろう。どれくらい悔やんだだろう。真一はずっと立ち直れないまま、この場所に来た。
もう涙も枯れ果てて、生きる気力を無くしていた真一は結論を出していた。
(次の車が来たら飛び込もう…)
そう…真一は死ぬ為に、この交差点に立っている。
もう既に30分以上の時間が流れていたが、やっと、その決心が付いた。
そこに一台の白い乗用車がスビードを上げて走って来た。
(今だ!)
真一は交差点に飛び込んだ。
“キキィーーー!!”
真一に驚いた乗用車は、急ハンドルを切りブレーキを踏んだ。車は濡れた道路の上を高速でスピンしながら電信柱に激突した。
“ガッシャーーン!!”
真一は真っ青になりながら慌てて駆け寄り、車を覗き込んだ。
乗用車のボンネットは大破して、運転していた男性はフロントガラスに頭を突っ込んでいる。
真一は急いで携帯で警察に電話を掛けた。
「あの…事故です! 車が電柱に…」
10分もしない内にパトカーと救急車が到着した。
「あなたが電話を下さったんですか?」
「は、はい」
「どうしてここに?」
「いや…偶然通りがかっただけです…」
真一は、真実を語れなかった。
今さっきまで死にたかった筈の男が、自分の身の保全を考えていた。
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