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警察での事情聴取でも真一は真実を語れなかった。
良心の呵責に苛まれながら、そのまま家に帰る事もできずに、真一は運転手が搬送された病院へと向かった。
病院に着くと、手術室の前の長椅子に女性が腰掛けていた。
「あの… 奥さんですか?」
「はい…妻の美弥子です。失礼ですがあなたは?」
「いや、偶然事故を目撃した者ですけど…心配で…」
「そうですか… ありがとうございます」
目を真っ赤に充血させた彼女の不安げな姿が真一の心に、より一層深く突き刺さった。
(俺のせいだ! 俺が飛び込んだばかりに… )
手術が終わり一命は取り留めたものの、運転手の意識は戻らなかった。
真一は毎日病院へ見舞いに行った。
しかし一週間後、懸命な介護の甲斐もなく運転手は亡くなってしまった。
妻と小さな男の子二人を残して…。
真一は心を傷めながらも泣き崩れる美弥子を励ました。
真一は葬儀にも参列し、その後もお菓子や子供のおもちゃを買っては、美弥子の家に毎日のように通った。
あまりに親切な真一に感謝して美弥子は言った。
「見ず知らずの方にこんなにまでして頂いて…」
「いや… 実は… 」
真一は悩んだ揚句、美弥子に真実を告げた。
「あの日、僕は死のうとしてたんです。御主人の車に撥ねられようとして… 。御主人が亡くなったのは僕のせいなんです」
美弥子は表情を一変させて立ち上がり、真一に噛み付くように言った。
「な、何ですって? 帰ってください!! 何よ、こんなもの!! 人殺し!!」
美弥子は土産に貰ったお菓子を真一に投げつけた。
「すみません」
真一は深く頭を下げ、足早に家を出て行った。
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