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しかし翌日、また真一は現れた。
「もう、来ないで下さい! 迷惑です!」
「何か力になりたいんです」
「結構です! 警察を呼びますよ!」
四五日は門前払いだった。
しかしその後、近所迷惑になるからと、家の中に上げて貰った。
「あなたさえ、飛び込まなかったら… 幸せな家庭だったのに… みんな、あなたが悪いのよ!」
「わかっています。僕にできる事はなんでもします。いや、させて下さい!」
それからは真一が来る度、美弥子は真一を罵った。
それでも真一は美弥子の家に通った。雨の日も、風の日も。
しかし、半年ほど経ったある日、真一は初めて現れなかった。
翌日、美弥子は真一に電話を掛けた。
「どうしたの? 昨日は来なかったわね。もう償いが済んだ気でいるの?」
「いや、そんなことはありません。すみません。ちょっと熱が出まして… 風邪なら子供達に移してはいけないんで」
「あら、そう… 別にあんたが風邪で死のうがどうしようが関係ないけど… あんたが来ないと私も怒りをぶつけるところがないから困るのよね… それに… 子供達も寂しがるから…早く治しなさい」
「あ、ありがとうございます」
最初は償いのつもりで美弥子の家に通った真一だが、美弥子や子供達に馴れ親しむにつれ、新たな感情が芽生えていた。
美弥子にとっても、怒りをぶつけるだけの対象だった真一が、悩みを打ち明ける事のできる掛け替えのない存在になっていた。
事故から一年が経ったある日、真一は美弥子に言った。
「これからは、あなたと子供達を正式な形で面倒見させて下さい」
少し驚いたように美弥子は尋ねた。
「どういうこと?」
「ぼ、僕と結婚して下さい」
「それも償いのつもり?」
「いえ、今は心から、あなたと子供達を守って行きたいと思っています」
美弥子は真一に抱きつき耳元で囁いた。
「ありがとう」
三ヶ月後、二人は式を挙げた。
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