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―詩本秀明の魂はその世界もろとも混濁の中をさ迷っていた―
…混濁の中には秩序が無かった。
落ちていると思えば登り、右に流れているかと思えば左に流れる。
まさしく濁流の如く不規則な流れは秀明の頭を揺さぶり続け、その意識をおぼろ気なものにしていく。
秀明は自分が体ごと流れているのにも関わらず、麻痺した感覚はそれすらも認識できない。
…秀明の世界は結局城島に潰されなかったが、まだ城島の世界に掌握されているままだった。
そして突然城島の世界が暗転してしまったために、秀明の魂はこの混濁の中に放り込まれたのだ。
秀明には城島に何があったかも、自分がこれからどうなるかも全く分からない…いやむしろ、それを思考する事もできない。
―だが秀明は無意識の内に、自分が死んだ後の事を思い描いていた。
怪魔となった魂は外部からの干渉が無ければ永遠に朽ちる事はないが、体は怪魔になっていないので失えばそれまでである。
それはつまりただの魂となり、永遠にこの混濁の中を漂うという事である…二度と向こうには帰れない。
―嫌だ!ダメだ!僕は帰れるんだ!帰って…怪魔達のために…
…秀明は自ら漏らした悲痛な叫びによって我に返り、今まで閉じていた目をカッと見開く。
…だが目の前にはさっきよりも暗い闇しかなく、秀明の行為が無駄であった事を告げる。
秀明は音無き叫びを上げ、必死に手足をバタつかせて混濁から出ようとするが…無駄な努力だった。
―嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!うわぁぁぁ!
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