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「―うるせぇな―」
―その時、確かに秀明はその声を聞いた。
気だるそうに響く声には僅かながらも殺気が込められており、秀明はかつての条件反射から少し怯んでしまう。
そして次の瞬間、秀明の体が何かによってガッチリと掴まれる。
掴まれたのは恐らくは右腕だろうと秀明が曖昧な思考をしていると、その右腕がグイッとそのまま引っ張られる。
その力は物凄く、体にへばりついていた混濁は弾けるように引き千切れ…そして次の瞬間その身を襲う強烈な浮遊感!
秀明は咄嗟に自分が空高く舞い上がった事を悟り、慌てて遠く離れた地面に目を向ける。
だが地面は黒くテカテカしており、まるでタールをぶちまけたようになっていた。
秀明は一瞬だけ躊躇いを見せた後、仕方なくそこに降り立とうと身構える。
―だがその時、秀明は背後に強烈な気配を感じ、その身は反射的に硬直してしまう。
慌てて背後に視線を向けてその姿を確認すると…そこには異様に白い足が高速で、
―ベキィ!
「ぶべ!」
秀明は後頭部に強烈な蹴りを喰らい、その体は紙くずのように回転しながら地面に激突する。
秀明は再び体が沈むものかと思ったが、秀明の体は雪原を滑るかのようにタールを撒き散らしながら…ゆっくりと停止する。
秀明は顔についたタールをネルシャツの袖で拭うと、現状を理解するためにゆっくりと辺りを見渡す。
…そこは洞窟のように広くて高い黒の空間で、奥を凝視しても何も見えてこない。
秀明の中を霊気を駆使してもそれは変わらず、そこには本当に闇しかない事を理解した。
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