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この世界ではボクは一人。
けど、正確には違う。たくさんの人がいて、たくさんの建物がある。でも、誰もボクを知らないし、誰もボクがいることが、わからない。だから、世界にはボクしかいない。
誰もボクに気付かない。その筈だった。君に会うまでは。
君に会ったのは森林公園の広い草原だった。見えないはずのボクの方をずっと、見ていた君はお弁当を食べている最中だった。
君はお弁当をシートの上に置き、トテトテとボクの方に歩み寄ってきた。
「君は何をしているの?」
それが君との初めての会話だった。だけど、ずっとひとりだったボクは。
あ~あぅ~、あ~。としか言えなかった。
「喋れないの?」
君は困ったように首をかしげた。やがて、何か思い付いたようで。シートまで戻って紙とシャーペンを持ってきた。
「これが『あ』これが『い』これが………」
君は丁寧にボクに言葉を教えてくれた。あのときは、とても嬉しかった。だって初めて誰かと喋ったんだから。陽が傾いた頃に君は
「また明日来るね。」
と言って、ボクに背中を向けた。
「バ……イ……バ…………イ」
これが初めて喋った言葉だった。
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