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海に面したこの穏やかな町に、最近まことしやかに囁かれる噂。
――満月の晩、海から女神の歌が聞こえ迷い子を海に誘い込む――
それは、あの白い大きな屋敷が建ってから言われるようになった噂だから、確認しに行こうぜって誘われた憐れな暇人扱いの俺。
「舜(シュン)は楽しくなさそうだな。この深い緑色に染められた厳かな夜の森に、ちょっとお茶目に鳴いてる動物の雄叫びとか、恋してる時みたいに胸がドキドキしない」
「お前の病気と一緒にするな。このホラーオカルトオタクが。何で夜に裕紀(ユウキ)とお化けを仲良く見に行かなきゃいけないんだよ」
そう、真っ暗な外灯も無い森の中を男二人でだ。
「それは、舜が僕の大事なDVDのディスクを壊したせいでしょ。あれには、真っ白な肌が美しい美女ばかり集めてたのに」
「……ただの心霊映像だろ……」
「あれはね、発禁ビデオの映像も入れてあったから貴重なの」
「……あそ」
舜はげんなりして、まだ熱弁宜しくホラー話してる裕紀の言葉を右から左にぬくことにした。
何で親友なんだろうって毎日思う。それでもやっぱり毎日学校で一緒につるんでいる。
溜め息尽きたくなるけど、こればっかりは相性の問題だから諦めるしかないのだろうが、こいつと縁をつくった神様が憎らしい。
「はっ?」
右から左にスルーだった舜の耳の鼓膜に引っ掛かった裕紀の言葉。
「だから、今から行く屋敷には近づけないんだよ。屋敷付近に行ったところまでは皆記憶があるんだけど、何故か次に気が付いたら全く関係ない場所で目を覚ますんだって」
「……狐に化かされたんじゃないの」馬鹿にしたような半目で返す舜。
「有力筋からの情報源だから間違いないの。僕より先にこの屋敷を調べに来た人がいたの。きっと、何か重大な秘密を隠してるんだよ」
「お前みたいな奴はあと何人この町にいるんだよ!!」
そう叫んだら裕紀に口を塞がれた。
「――静かにして。例の白い屋敷に着いたよ」
今まで歩いてきた森が急に開けた先には、丘の上に建つ白い建物が目に入った。
口を塞ぐ裕紀の手をどかしながら、お伽話にでも出てきそうな洋風の大きな白い家を夢見心地で見ていた。
満月の幻想的な雰囲気の夜と、その異国じみた建物は違う国に紛れ込んだ気にさえする。
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