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辺りを探りながらゆっくり丘の上へと登る舜と裕紀。
噂は別としても、人の家に勝手に侵入まがいを試みようとする二人の気分は泥棒状態である。
その類の悪いことをする前というのは、妙に気持ちが高ぶり楽しくなる。二人も少し顔が笑っている。
「ここってどんな人が住んでるのかわからないのか」一応、小声で話す舜。
「仲間は誰も辿り着けなかったからな。それに、特別目立った噂も無い。でも、住んでる人がいるのは間違いない」
「なんだそれ」
「……情報で言っていた」本当に大丈夫なのか。
そうこう言っているうちに着いた白い屋敷の門の前。
「遠くで見るより、大きい門に塀だな」
舜達を拒むように建てられたそれらは、180センチの身長の自分さえ小さく感じさせる。実際はそんなになくても、3メートルはあるんじゃないかと思える。
「家の中は明かりがついてないな」
門から中を伺う裕紀がそう呟いて、舜が愛用の腕時計を見る。
「12時手前。早い家なら家族就寝でもおかしくはないけど、出掛けているのかな」
フッと舜が視線を別の場所に変えた時、頭に涼やかな響きが聞こえた。
――私を見つけてくれますか――
「……う……た?」
「舜何か聞こえたのか」そう言って耳をすませた裕紀にも届いた。
透き通る水のように澄んだ声が歌っている。
「天使……そう女神が歌っているみたいだ」
舜の心は完全にその声に魅了されていた。
裕紀は声のするほうを探る。
「あっちに別の道があるぞ」
「……ああ」
ふわふわした気持ちで返事したら、裕紀にじれったいと引っ張られてそっちに連れていかれた。
「なんだよこれ」
裕紀は苦い顔でつぶやく。
海に面した、崖といってもいい丘の上に建てられたこの白い屋敷。海と反対に正面玄関、その横手側に別に下る道があった。
その道にはずっと続く血の跡。人の歩く歩幅間隔に途切れることなく点々と落ちている。
「その血、光ってないか」
舜の言葉に裕紀がライトをあてれば、金粉でも混じってるように輝いてる。
ただの血じゃない、そもそも血ですら無いかもしれない。
「これは事件だ、いくぞっ!!」
「って、そんなに突っ走るなよ」
裕紀は弾丸みたいにかけだした。目がキラキラと漫画みたいに輝いている。
そして、一瞬で姿が消えた。
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