序章~月と海と人魚の姫と~

4/7
前へ
/86ページ
次へ
「なんだっ!?落とし穴か」  ドスンっと凄い音の後に、裕紀の悲惨な叫び声が穴から谺(コダマ)して聞こえる。 「大丈夫なのか」  覗き込む舜に弱々しくも、半笑いで返してくる。とりあえず無事そうだが、穴は2メートルはある気がする。 「時に知的好奇心は、恋の情熱のように人を盲目にするね」 「阿保言ってないで待ってろ。今、ロープかなんか探すから。何で今時落とし穴なんて」 「俺の事はいいから、早く血の跡を追え」  裕紀が穴の中から投げた鞄を慌てて舜は受け止めた。 「その中にビデオが入ってる」 「はあ!?自分がどういう状況かわかっているのか」 「それで映像を納めたらDVDのことはチャラだ」 「……ああ、もうわかったよ」 「可愛い下僕よ行ってこい」 「本当に阿保な奴だけど、何の間違いか俺の親友だ。気が向いたら助けにくるから」  何か苦情を言っている裕紀を無視して、舜は鞄を握り締めて道の先を見る。森の中に続く血の跡。そして、この世のものとは思えない歌声。 ――私を見つけてくれますか   声無き私を真実として見つけてくれますか――  ずっと舜に届く切実な想いの声。  舜は恐怖よりも、この声の主に会いたくて仕方なかった。  気が付けば暗い森に向けて一人疾走していた。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加