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「なんだっ!?落とし穴か」
ドスンっと凄い音の後に、裕紀の悲惨な叫び声が穴から谺(コダマ)して聞こえる。
「大丈夫なのか」
覗き込む舜に弱々しくも、半笑いで返してくる。とりあえず無事そうだが、穴は2メートルはある気がする。
「時に知的好奇心は、恋の情熱のように人を盲目にするね」
「阿保言ってないで待ってろ。今、ロープかなんか探すから。何で今時落とし穴なんて」
「俺の事はいいから、早く血の跡を追え」
裕紀が穴の中から投げた鞄を慌てて舜は受け止めた。
「その中にビデオが入ってる」
「はあ!?自分がどういう状況かわかっているのか」
「それで映像を納めたらDVDのことはチャラだ」
「……ああ、もうわかったよ」
「可愛い下僕よ行ってこい」
「本当に阿保な奴だけど、何の間違いか俺の親友だ。気が向いたら助けにくるから」
何か苦情を言っている裕紀を無視して、舜は鞄を握り締めて道の先を見る。森の中に続く血の跡。そして、この世のものとは思えない歌声。
――私を見つけてくれますか
声無き私を真実として見つけてくれますか――
ずっと舜に届く切実な想いの声。
舜は恐怖よりも、この声の主に会いたくて仕方なかった。
気が付けば暗い森に向けて一人疾走していた。
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