23人が本棚に入れています
本棚に追加
暗い暗い光も届かない闇の中をひたすら走り抜ける。
「うわっ」
突如、途切れた森の切れ目。舜は予想以上の明るさに思わず声をあげてしまった。
ひらけたその場所で、目に飛び込ん出来たのは砂浜と海だった。
今日は美しい月夜、そう満月の軟らかくも全てを映し出そうとする冷ややかな光が降り注いでいる。
白い広い砂浜の奥、どこまでも続く黒い海。
「……花が咲いてる」
舜の口から思わず零れた言葉。
白い白い真っ白な花が海の上に一輪浮くように咲いていた。
それは小柄な一人の少女。
彼女は長い金の髪を風になびかせ、海の中に腰までつけて一人で佇んでいた。
真っ白なドレスを大きく広げる姿は、白い大輪の花を思わす。
「……綺麗だ……」
冗談抜きで神の使いに思えた。別世界に誘われた心地だった。
――私を見つけてくれますか
声なき私をあなたは真実として見つけてくれますか――
舜の頭に澄み渡るように届いた歌声。
なぜそんなことを聞くのだろうとぼんやり思った。それはまるで消えてしまう前の言葉にも思える。
そこでやっと、ある可能性に行き着いた。
「おいおい、まさかと思うけど」
舜は持っていた鞄を放り出して駆け出していた。砂浜に足が入り込んで走りにくいから、靴も脱ぎ捨てた。呼吸するのも忘れる程に走っていた。
波打際、柔らか過ぎる砂の感触に顔から海にこけた。舌の上を濃すぎる塩の味がざらざらとなぞっていく。
「しょっぺー……って、待ちやがれ!!」
顔を上げた先に見える彼女は、既に肩までしか見えない。
波の抵抗で足が思うように進まない。それでも走る。
気づけば、彼女は首から上までしか顔をだしていない。後少しなのに。
渾身の力で、砂を蹴った。
「捕まえたぞ」
彼女の手を掴んだその瞬間、舜の体はドボンっと海の中に沈み込んだ。そこは想像以上の深見だった。
自分より奥にいるはずの彼女は平然と揺れる事なく首をだしている。
なぜってことを考えるより重大なことを忘れていた。
「俺カナヅチなんだよ。助けてくれ!!」
その無様な叫び声と暴れる俺に、やっと彼女はそこで振り向いた。
最初のコメントを投稿しよう!