遙か北より遣われし

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オルコアは、開いたドアの間からじっと中の様子を窺った。 目が慣れるまでの時間、じっと息を凝らし気配を感じ取ろうとする。 しばらくしてオルコアは肩の力を抜くと、少女に話しかけた。 「何もいないみたいだよ?」 少女はびっくりしたように部屋の中を見回し、今度はオルコアに必死で訴えた。 「本当にいたんだよ? 真っ黒で、もやもやっとしてて、それが近付くと吸い込まれて消えちゃうんだよ?」 オルコアは頷きながら少女のことばを聞き、少女が少しでも落ち着くように背中をトントンと叩いた。 「うん。君が嘘を言ってるとは思わないよ。きっと違う場所に移動したんだね。さあ、カーテンを開けよう」 そのまま部屋を壁伝いに歩き、オルコアは窓辺に向かった。 分厚い毛織りのカーテンがシャラシャラとレールを響かせながら開いていくと、外の光が部屋の中に満ちて中の様子が露わになった。 そこは、まるで廃墟の一室だった。 部屋が死んでいる……とでも言おうか。 家具という家具が埃を被り、ほとんど使われた形跡がない。 ところどころに蜘蛛の巣がかかり、豪華な調度品が全くのガラクタに見える。 オルコアはまた壁伝いに部屋を出ようとした。 すると、突然少女がオルコアの胸を必死で叩いてきた。 どうしたのかと思ってオルコアが少女の顔を見つめると、少女はオルコアにまた訴えた。 「黒いのを探してくれないの? 怖いよう」 少女の恐怖は確かなようで、オルコアは宥めるように少女の髪を撫でながらゆっくりとその部屋を出て少女に言った。 「大丈夫。ちゃんと探すからね。心配しなくていいよ」 それまで黙って見ていたカレンディーナが、いよいよ我慢できずに口を挟んできた。 「オルコア! いい加減にしなさい。それの言いなりになってどうするの? それは……」 そのことばを、オルコアは口に人差し指を当てることで黙らせた。 その瞳には承知しているという意味が込められていて、オルコアに何か考えがあることを窺わせる。 カレンディーナは大きな溜め息をつくと、またそのまま黙って後ろを付いていった。
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