5719人が本棚に入れています
本棚に追加
正直、オルコアは自分が魔女に「生きたい」と答えた覚えはなかった。
自分の命は魔王封印時までと思い込んでいたから。
ゆえに、この先どうすると聞かれても、自分が聞きたいくらいだった。
そこへもってきて、養子縁組……
判断に苦しむのが正直なところ。
そして、オルコアはどうしたものかと辺りを見回し、ハッと大事なことに気づいた。
無意識に……
本当に無意識に探してしまう。
ずっと連れ添ってきた大切な……
「私……は…………」
急に不安顔になってしまったオルコアに気づいて、エディスは怪訝そうに首を傾げた。
いきなりどんな心情の変化がオルコアに起こったのか。
それを読もうと、エディスはじっとオルコアの瞳を見つめる。
やがて、オルコアは静かに言った。
「私だけが生きるなんて、許されない」
ビクッと、エディスの表情が凍り付いた。
そしてそれは驚いたのではなく、そういう気持ちが起こることを予測していた、まさにその時を迎えたことに際しての緊張だった。
「オルコア様……」
「私は、大切な命を犠牲にしてしまった。私だけが……」
「違います!」
エディスの声は、思いがけなく厳しく響き、オルコアのことばを遮った。
驚いて振り返ったオルコアに、今度はとても穏やかな声で、エディスは語りかけ始めた。
「オルコア様……カレン様は、あなたに生きて欲しかったのです」
「え?」
「魔女様が仰っていました。魔王の封印の時に、この世の命の器から一つの命がこぼれることは決まっていたと。それはカレン様もご存知でした。
カレン様は、あなたに危険が迫った時、あなたを助けるためにその身を投げ出され、その時に一つの願い事をされたのです」
ふわり……
と、窓から優しい風が入り込んでくる。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
願わくば
この清き命を
お救い下さい
大切な
この命を
お救い下さい
私が代わりに
この命を差し出しましょう
だから
どうかこの命を
お助け下さい
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「カレン様は、一つこぼれる命のために、自らを差し出されました。
あなたに、生きて欲しかったからです」
このエディスのことばを聞いたオルコアの脳裏には、カレンディーナのいたずらっぽい笑顔が溢れるほど沸き上がってきた。
最初のコメントを投稿しよう!