国王アルダ

6/12
前へ
/596ページ
次へ
クレオーニア伯爵は、ウエリートン公に周囲に誰もいないことを確認させ、セシリアに軽く頭を下げて話すように促した。 セシリアはそれを受けて、怪訝に首を傾げているアルダにまっすぐに向かい合い、少し緊張した面持ちで話し始めた。 「前王であるあなたの父、ルーファスは、偉大な魔術師でした。 あなたも知っているように、今から20年前、ルーファス王も魔王と戦い、勝利しました。 ですがルーファスは、この城の敷地に結界を張りました。 何故なら、魔王がまた召還されることを知っていたからです。 あなたにはまだ教えていませんでしたが、ルーファスは大きな失敗をしました。 魔王を封じる際、ただ封じるだけでなく、自身が持つ封魔界を開き、そこに魔王を封じ込める必要があったのです。 ですが、ルーファスはそれをし損じました。 魔王は封印されましたが、誰でもまた召還出来る不安定な封印しか施せなかったのです」 それは、国の誰も知り得ない重大な機密事項だった。 アルダの相貌は驚きと共に見開き、その表情は焦りにも似た様子を表し始めた。 「封魔界に封じてしまえば、もうその魔術師にしか魔王を召還することはできません。 次の魔王の復活の時にそれを……と、ルーファスは誓ったのですが、叶いませんでした。 ルーファスは、魔王の復活までに己の命が尽きることも知ってしまったのです」 それは恐ろしい真実の話。 セシリアの口調はとても厳しく、かつて愛した人の苦悩を表現するに十分だった。 そしてセシリアは、今度はアルダに優しく問いかけた。 「アルダ…… 前王ルーファスは、そのような予言をすることはできません。 それらを全て教えてくれたのは、ルーファスの師であり友である、北の魔女なのですよ」 自分の知らなかった大変な事実に、アルダは何も言うことができず、ただ、その話を聞き続けるしかなかった。
/596ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5719人が本棚に入れています
本棚に追加