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「母様は、何の用事だろう。こんなに急な呼び戻しって、今までなかったよなあ……」
ルーゴンフィーの背中で、オルコアは首を傾げた。
「まあ、あの方は気まぐれな時もあるからな。大変なことでなければいいが、俺は嫌な予感がする」
ルーゴンフィーがそう言って、オルコアは、黙ってじっと考え込んだ。
やがて、木々の間にひっそりと建つ北の魔女の屋敷が見えてきた。
オルコアはルーゴンフィーの背中からためらいなく飛び、屋敷の表の庭にしゃがみ込むように着地すると、直ぐさま立ち上がって、そのまま飛び去るルーゴンフィーの後ろ姿を見送り、徐に屋敷へ入っていった。
屋敷の入り口から見て右奥に、北の魔女の部屋がある。オルコアは、ゆっくりとした足取りでそこへ向かった。
「母様、お呼びですか?」
暖炉の中にはパチパチと薪が燃えていて、その前にある安楽椅子にゆったりと腰掛けているその人は固く閉じていた白銀の瞳を開け、オルコアを見た。
透けるような白い肌に光沢のある白い長髪。瞳は白銀の奥で赤い輝きを発し始める。
オルコアが知るいつもの少し愁いた美貌は、もうその経歴など想像できないくらい長く生きているのだが、年若い貴婦人のように見える。
彼女はしばらく黙ってじっとオルコアを見ていたが、やがて静かに話し始めた。
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