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あまりの出来事に呆然としてしまっていた辺りの人々は、次第に事態を把握すると安堵の溜め息を漏らし、そしてやがて、喜びの歓声を上げ始めた。
急に晴れやかな空気が城の庭に満ち、人々を祝福し始める。
セシリアはその様子を嬉しげに見て取り、愛しそうにオルコアを見つめた後、そっと視線を魔女に戻した。
魔女もセシリアを見ている。
「魔女様……」
まるで絞り出すかのような声で、セシリアは魔女に話しかけた。
だが、魔女は軽く首を横に振り、セシリアに二の句を継がせなかった。
「セシリア……辛かったのう。お前は辛かったのであろう? ルーファスは、お前のことを本当に心配しておった。
そして、これだけは誤解するな。ルーファスは、オルコアを北の森に連れてくることを最後の最後まで反対しておったのだ。だが、運命は逆らえぬ。私はルーファスの死期をどうしてやることもできなかった。ならば、ルーファスは己の我が儘でこの世界を魔王の驚異に晒すわけにはいくまい。ましてや、この仕事を他の誰に頼むこともできまい。ルーファスこそが、他の誰よりも心を痛めておったのだ。
分かっておくれ」
そして魔女は、ホロホロと涙を溢すセシリアから視線を外し、今度はオルコアの顔をのぞき込んだ。
そっとブロンドの前髪を指先で除けて……クスッと笑う。
オルコアの胸に頬を寄せていたエディスが「それ」に気づき、ハッと魔女を振り返った。
「ふふ……オルコアが目覚め問うてきたら、こう伝えておくれ」
それは、魔女からの贈り物。
ほんの少しの間だけ母として共に過ごした、愛情のかけら。
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