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ふわり……
レースの白いカーテンが、軽く裾を翻し……
ピチチチ……ビチチ…………
自然の光は外から窓枠に忠実にまっすぐ差し込んできて、栗材の床をほんのり優しく温めている。
風が入った窓の外に視線を投げると、濃い緑が優しく招くように揺れており、それに戯れるかのように小鳥がコロコロ遊んでいる。
他に何も音はなく、ただ、静かに……
ふわり……
またカーテンの裾が翻った。
長い長い夢を見ていた。
それは、川の岸辺でキラキラ光る水面を眺め心穏やかに座しながら他愛ない話をしている夢。
……そうだ。こうしてはいられない。
行かなければ。
休息は十分に取れた気がする。
もう、行かなければ。
動き出そうと辺りに手を伸ばして探るが、不思議なことに自分の荷物が見つからない。
あれ? どこに行ったかな?
もう行かなくちゃならないのに。
ああ、そうか、あそこかも知れない。
全く緊張感が足らないなあ。しっかりしなければ。
「行かなくちゃ」
「どこに?」
不意に返事が返って、ふと気が付くとそこは川岸ではなく、ぼやけた頭でゆっくり辺りを観見回して……
「あれ?」
部屋の中である。
壁があり天井があり……
そして自分はベッドに寝ている。
窓からはキラキラした光が差し込んでいて、時折、ふわり、ふわりとカーテンが揺らめいている。
「ここ? 私は?」
クスクスクスと笑い声が聞こえて、ハッとそちらを振り返った。
そこにはあのよく見知った愛らしい少女がいて、手にはまだ途中らしいレース編みの材料が握られている。
「よくお休みになられました?」
その顔が、にっこりとして問いかけてきた。
何がなんだかよく分からなくて、ちょっと首を傾げて考えて……
逆に問いかけられた。
「どこに行くんですか?」
「え?」
「だって、しきりに行かなければ、行かなければって」
そう言うと、少女はまたクスクスと笑った。
ここで、やっとぼやけた頭がクリアになってきた。
ハッと驚いたように身を起こす。
辺りを見回し、自分の両手を確かめ……
「私は……?」
呟きを耳にした彼女は、切なそうに眉を寄せゆっくりとベッドに近づいてきた。
「お疲れ様でした、オルコア様。大変なお仕事を、本当にありがとうございました」
彼女、エディスはオルコアの手を取り、そっとその甲に頬を寄せた。
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