遙か北に微笑みかけて

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手にエディスのぬくもりを感じ、オルコアはしばらくうっとりしたようにその光景を眺めていた。 そして、やがて手から離れてじっと自分を見上げてくるその目を見て、オルコアは突然我に返ると慌てて手を引いた。 気まずそうに目を逸らし、何か話さなければと頭の中をまさぐり返し…… そして、自分の頭の中には、クローゼットをひっくり返したに等しいくらい疑問が散らばっていることに気づいた。 「私、どうしてここに? ここは? そして、何故あなたがここに?」 するとエディスは苦笑しながらオルコアの止まりそうにない唇に人差し指を当てて黙らせ、静かに話し始めた。 「ここはクレオーニア邸です。お父様があなたを引き取られました。あなたがご了承下さったら、あなたにはクレオーニアの家に入って頂くことになります」 「え?」 訳が分からずオルコアは頭を抱え、それは聞きたかったことではなく、いや、聞きたかったことで…… 「そ……うではなくて、私、なんで何ともないんですか?」 声はすでに裏返り、心の動揺がただならぬことを物語っている。 それもエディスはおかしくてたまらないのか、クスクスと笑いが止まらない。 「あなたは、生きることを選択されたんです」 「え?」 「あなたは『生きたい』と念じられた。だから、今、こうしているんです」 そして、エディスはゆっくりと、今までの経緯を話し始めた。
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