遙か北に微笑みかけて

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北の魔女…… 彼女には、オルコアが魔王を封印したら為すべきことがあった。 それは、オルコアの骸を回収し北の森にオルコアが掘った墓穴に葬ること。 本来オルコアは、フレアドールの町のイルービラ邸で果てるはずだった。 だが、オルコアは事切れる間際に最後の力を振り絞り、北の魔女の使い魔ルーゴンフィーを呼んだのだ。 それは、オルコアがそこで果てることをよしとせず、フィルグリーンズ城にいるいろんな人に会いたいと願った故の行為だった。 ほとんど喋ることもままならない状態でなされたルーゴンフィーへの呼びかけは、オルコアを気にかけて止まないルーゴンフィーの敏感な耳にちゃんと届き、背に乗せて城までオルコアを運んでいったのだ。 そういうわけで魔女の予定は、オルコアの骸を迎えに行く場所が、イルービラ邸からフィルグリーンズ城へと大きく変更になってしまった。 それはともかく、魔女は、城に着くと、まずオルコアに意志確認をした。 じっと額に手をかざし、深層心理に問いかける。 そこで魔女は、オルコアの意志を聞いたのだ。 生きたい。 その声を。 オルコアは、本来ならば命をなくすはずだった。 魔王の封印の時に命の器から一つの命がこぼれ落ちることは、魔女の確かな未来の記憶。 ところが実は、いろんな事情でそれが狂ってきたのだ。 故に魔女はその調整を図らねばならなくなった。 魔女はずっと昔から、人間世界で自ら魔力を使うことを禁忌としている。 だから、本来皆の前で魔法を使うことはできなかった。 ゆえに、取りあえず北の森へ連れて帰ってオルコアが死んだことにし、北の森でもう一度ちゃんと意志を確認して調整し、そのままの運命を辿らせるか、それとも逆らって助けるか、それを決めようと思っていた。 そしてあの顛末。 結局、オルコアを魔法によって蘇らせ、皆の元に返すことになったのである。
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