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プロローグ
その家の灯りはまだ灯っていた。
作業場からの小さなランプの灯はゆらゆらと燃えている。
ある刻を経て、老人は微笑みながら家政婦を呼んだ。
「どうかなさいましたか?」
すぐに家政婦はやって来た。
「できた。ついにできたぞ。私の人生において最高の出来だ」
老人の手にはギターが握られている。
「音色、聞かせて頂いていいですか?」
「おおとも」
美しい音色が部屋を包んだ。
「よい音ですわ」
「そうか、そうか…」
何度かうなずいた老人は真っ暗な外を見て言った。
「この最高のギターの音色を最高の奏者によって世界中に聞かせてやりたい…」
「作用でございますか。きっと、きっといつか叶いますわ」
「ありがとう」
老人は優しく笑った。
それから間もなくの事である。
その家からは家政婦の叫び声だけが聞こえた。
「旦那様!?旦那様!?」
誰ともなく聞こえない声は、作業部屋にも響いた。
その部屋のテーブルには老人が先程造り上げたばかりのギターが置かれていた。夜が明けた時、老人の命とギターの姿は共に消えていた。
今、そのギターの行方は誰も知らない。
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