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クラー・コースはアメリカの百年ほど前に没した、ギター職人である。 その腕前は「神」と讃えられ、世界各国から名立たる音楽家達が彼のギターを求めたのだった。 しかし晩年に病に侵され、老いもあってか造るギターの数はめっきり減ってしまった。それに反比例しながら彼のギターの評価や価値までもが上がっていった。 「死」を憂いた彼は最期の最期に一本のギターを造りはじめた。 彼は焦っていた。果たしてこのギターが完成するまで自分の命は持つだろうか?できれば最高のギターを造り、最高のアーティストに最高の演奏をしてもらいたい。そしてそれを耳に聞いてから死にたい。死後も自分が造ったその最高のギターを世界中の人に聞いてもらいたい。 そんな想いを乗せながらコースは板を計り、磨き、弦を張った。 ただひたすらギターを造る事に専念した。 そんなある日にギターは完成した。コースは見事に完成したギターに、自分の名前と“ソミア”と書いた。 少しだけギターを奏でたコースはその日にの内に死んだ。 誰もがギターを気にしたが、何処かへと消えてしまったのだった。
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