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クラー・コースを尊敬していたひとりのギター職人のもとに、偶然が重なって“ソミア”がやってきた。
尊敬と同時にコースマニアだった職人は、初めて女性を愛でるようにそっと、じっくりとギター見入った。
眼は恍惚、まさに愛撫をかされるように、瞼は半開きで瞬きは早かった。
「これがコースのギターか」と何度も呟いた。
そして自分に、同じものは作れないとも思った。
自分だってかなりの腕と称された存在なのは自覚していた。
このギターさえなければ自分が『伝説』にとって替われる。
眼がみるみるうちにサディストのようになった。
息づかいが荒くなった。
これさえなければ、これさえなければ…。
職人の手には手近にあった、ガラス製の重い灰皿を握った。
これさえなければ、これさえなければ…。
…思いきり振りかぶった。
その残骸の第一発見者はその土地の富豪者だった。
ギター職人が“ソミア”を手に入れたと聞き、どうにか手に入れようと交渉にやってきて、扉を叩いたが返事はなく、鍵が開いてあったので、入ってみたらそれを発見した、という。
ギター職人の謎の死は、不可解に思われながらも忘れ去られ、迷宮入りになった。
富豪者は“ソミア”を探したが、何処にもなかった。
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