2/2
前へ
/31ページ
次へ
人込みはさっきより増えたように思える。 奏と早紀は人を掻き分けて人込みの中心へ辿り着いた。 そこにはぼろぼろのマントのような服をまとい、濁った色の帽子をかぶった栗色の髪をし少し煤けたギターを持った同い年か少し上の青年が座っていた。 奏はじっくりと青年の顔を見た。 帽子で隠れてよく見えないが、一瞬目が見えた。 綺麗で青く、優しそうな目。奏は少し見とれていた。 「早く始めろ!」後ろ側から少し大人目な鈍い声がした。 青年は何も言わずギターを構えた。青年が息を整えるのが聞こえた。 指が出る手袋をした左手で二弦三弦を押さえる。指はなめらかにいくつかのフラットの間と弦を当てた。 右手は弦をゆっくりと弾き出した。 弾いた…というよりも優しくなではじめた感覚だ。 ガヤガヤしていた空気が一転、さっと静まり返った。 このギターの音色はどこまで届いているのか…。 道行く人も足を止める。 走る車の音がかなりうるさく感じる。 一弾き一弾きの旋律。 物悲しいけれど、何か胸の奥から湧きだしてくる美しく、壮大な響き…。 体全体を包んで行く。 ギターの本当の歌を聞いているような感覚だ。 一瞬、時を忘れた。 ここにいる誰もがそう思っているに違いない。 早紀も曲に耳を澄ませている。 今の今、ここに優しい居心地が確実に存在した。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加