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私は緩やかに息を止めた
所詮世界など私の視界に入る範囲でしかないのだと気づいたときに私は周りを背伸びしてみるのは止めた。
いつしか君が言っていたように確かに世界はくだらないのかもしれないけれど私の世界より君の世界の方が私にはとても色鮮やかに見えるのは君の言語能力が私よりも遥かに高いからだろうと。
色の見え方は人の赤血球の量によって微妙に違うらしいと活字は私に教えてくれたが、言葉にして吐き出す色に差などないんだと思う私はまだ未熟なんだろうと、私にしてみれば辛気くさい色でしかない枯れ木を前にして君の色を考えてみたけれどやっぱり辛気くさいままだった。
私が君の眼球を手に入れたとしても私の世界は変わらないけれど、君は果てしない黒の中にも世界を見いだすのではないかと。
人は自分勝手にも自分のみたいものしか見ていないらしい、ならば私は海の青だけ見ていたいと痛烈に思ったけれどそれは海の生き物に対して失礼なのではないかと君は言ったから私は空も眺めることにしようと考え海の中で天までブランコをこいだ。
ぶわりと活字の中に飲み込まれるあの感覚を言葉にして表したいと思ったのだが私にはそれはとうてい叶わないことだと諦めて横に座っている君をみたら君は眠っていた、私が思案していたことをなんなくこなした彼はいま活字の海に漂っているにちがいない、そう思った私は眠った
深く深く
緩やかに息をのんで
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