試験前夜

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「お前ねぇ、いい加減にしろよ?今何時だと思ってんの」 『二時を五分程過ぎた所。…あ、六分になった』 「へぇ?なら、即刻その時計は処分なり修理に出すんだな。俺の時計はきっかり三時だ」 『あらら。買ったばかりなんだけどなぁ…』 「知るか。どっちにしろこんな夜もまだ明けない内に電話を掛けてくるヤツを友人に持った覚えはないね。と言う訳で、切るぞ?」 『ストップ。ホールドオンプリーズ』 「ノーセンキュー。じゃあな」 『ちょっと待ってよ、会話繋がってないし』 「安心しろ、俺の中では一直線だ。因みにお前の台詞は用途が間違ってる。小学生からやり直しとけ」 『小学生はそんな高度な英語使えないし…ってゆーか君だって間違ってるじゃん』 「…受信側は電話代が掛からないコトを知っていてもな、下らない話に付き合える程俺は暇じゃないんだ。もう一度時計を良く見てから電話するんだな」 『だって声が聴きたくなったから』 果てしない、不毛なやりとり。 気まぐれに掛けてくる電話やメールは、昼夜を問わず、内容もまるでどうでもいいこと。 飽きるほど繰り返されている筈なのに、その度に腹を立てたり呆れたり…密かに喜んだり。 受話器を持つ手が、動揺の為か微かに震えているのが分かる。 「…で?」 『それだけ。惜しむらくは、電話だとおやすみのチューが出来な…』 「良かったな」 相手に最後まで言わせず、重ねるようにして押し出した言葉が、不自然に響いていないことだけを祈った。
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