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「確かに、ただ豊かな自然が広がるばかりです。ですが、これは 私が最後に観ていた景色とはまるで違う」
元就は、光秀のこの応えの意味があまりよく分からずに聞き返した。
「どういう意味だ?」
少しの沈黙を経て、光秀は先程のような声を絞るかのように口を開いた。
「紅蓮に染まる空 紅蓮に染まる物 真っ赤な色──どれもこの景色には無いものばかりです。」
「それがどうしたというのだ」
「…快楽を得るために謀反を起こし、敬愛していた信長公をこの手で殺め、血飛沫の中…一瞬の快楽に身を委ね、一晩にしてそれを失った。ならば、私はこのあと、どう生きてゆけばいいのでしょうか。それを求めて、貴方のところへ来ました。──そして、この景色を、目に焼き付けたいと思う出来事を、耳にしてしまったのです」
何が何だか全く理解出来ない元就は、今一度問いかけをしようと口を開きかけた。
しかし、言葉を発する前に、光秀の声によって遮られてしまった。
「…近く傷が癒え次第、お世話になった分のお礼を致します」
そう言って光秀は、再び外の景色に視線を移し、元就が何を言っても、全く応えようとしなかった。
それでも、元就には光秀の最後と一言の意味が、何となく 理解を深められていた。
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