時刻 ( トキ )

そうして考えているうちに時は過ぎ、毛利は豊臣に降伏し、その傘下に入った。
元就にしてみればかなりの屈辱だったであろう。
が、彼はその選択肢しかもう自分には残されていない、というところまで攻め込まれ、仕方なくそれに応じたのだった。

「なんたる無様な…しかし、毛利の血を途切れさせぬためにはこれしか残されていなかった…皮肉なことよ……」

安泰の訪れた高松城の天守閣。
そこで元就は、昔にある男が日永に座っていた場所に目をやりながら、その時のようにそこに居るはずもない男に向かって、言葉を掛けた。

「…貴様も、よくやったものよ。よもや貴様などに助けられるとはな……」

そこには居ない男に向かって、もう一度、一人　呟いた。