浦峰中央病院

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浦峰中央病院

病院の廊下には、璃那の走る足音だけが響いている。 宇宙人によって電気系統を破壊された院内は蛍光灯が消え、昼間だと言うのに陰湿な空気に包まれていた。 病室のある東棟の扉の前で璃那は立ち止まり、呼吸を整えている。 宇宙人はこの棟に籠城していると婦長から連絡が来たのは、市役所であった宇宙人討伐の説明会から病院に戻った時であった。 話によれば、宇宙人は患者に紛れて病院に侵入したらしいがどんな種類の宇宙人なのかはまだ分からない。 「あぁあ、なんで私がこんなことしなきゃなんないのよ……」 やる気なさげにぼやきながら璃那は警備員室からもってきた特殊警棒を伸ばした。 「仕事がまだ残ってんのに……」 ぶつぶつと文句を言いながら扉を開け、東棟に入る。 目の前の十字路の方から物音が聞こえてくる。 璃那は警棒を両手で持ち胸の前で構えながら一歩一歩、十字路へ向かう。 「患者さんですかー?……」 「キュルキュルキュル……」 ヒトの返事ではないようだ。 璃那は一歩下がり警棒を握りしめる。 「もう、やだ……」 眉間にシワを寄せて十字路を睨んでいると向かって左の廊下からそれは現れた。 全身真っ赤の毛むくじゃらで、2つある目玉は飛び出している。 頭には誰かが突き刺したのか、カッターナイフが刺さっている。 璃那はそのあまりにショッキングな宇宙人の姿にすっかり怯えてしまっている。 警棒を握る手や肩、膝までもが震えて言うことを聞かない。 「キュル…キュルキュルキュル」 宇宙人はようやく璃那を確認すると首を傾げながら近づいてくる。 ヨタヨタとスピードは遅いものの、逆にそれがホラー映画のようで璃那を恐怖させる。 誰か一緒に戦ってくれるヒトが入れば全然平気なのだが、一人ではとても戦うなんてできない。 まさか宇宙人がこんなにホラーな生物だとは……。 とんだ誤算に形の良い唇を噛み締めながら璃那はやつの脇をすり抜けて、逃げ出した。 「キュルリン…キュ」 宇宙人は璃那が逃げ出した方向にのそのそと向き直ると、これまたのそのそと後を追い始めた。 しばらく走ってやつを完全に撒いた璃那は安堵していた。 「はぁ、はぁ、なんなのよ、あいつ……」 後ろを振り返り何もいないことを確認して病室に隠れようと扉を開けた。 すると野太い声が璃那を射すくめた。 「あんた誰!?」 驚いた璃那が声の方を見やると、カーテンの向こうには大柄の男が立ってこちらを睨んでいた。
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