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  「頭中将、姫はつつがなくお過ごしか?」 「はい、東宮、入内の準備も万端整いましたようです」 「そうか、それは重畳(チョウジョウ」 「はい、ただ…」 「ただ、何だ?」 「いえ、何でもございません」  頭中将は慌てました。  けれども、東宮も引き下がりません。 「言い掛けてやめられたら、気になって仕方ないではないか。  姫がどうかなされたのか?」  頭中将も観念しました。 「実は、文をもらったことがないのが心残りだ、ともらしまして…」 「ふむ、なるほど、もっともだ。姫はお産まれになったときから私の元への入内が決まっていたようなものだ。わざわざ付け文しようという輩もおるまい」 「はあ…」 「文、か…」  東宮は、手にした扇を持て遊びながら、何やらお考えのご様子です。  しばし後、扇をぱちんと鳴らし、いたずらっぽい顔で、 「なあ、中将、姫の願い、我々で叶えて差し上げようではないか」 「東宮と私とでございますか?」 「そうだ。よい趣向だと思わないか?  姫とて私からの文に喜びはしても、からかわれたと怒ることはないであろう」 「左様でございますな。間もなく背の君(セノキミ)となられるお方からのお文ですから、何の問題もございませんし」  
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