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「入内間際の姫への歌なのだから、題は…」
「忍ぶ恋、でしょうか?」
「そうだ」
しばし無言で二人は歌を考えました。
「中将、できたか?」
「はい」
「では、私が詠んだ歌をそなたが代筆してくれ」
「はい!?」
「して、そなたの歌を私が書く」
「なぜそのような…」
「よいではないか、面白くなって参ったぞ」
頭中将は内心『どこが真摯な心なのか』と思いつつ、しぶしぶ東宮の仰せに従い、東宮御製(ギョセイ)のお歌をいつもに増して丁寧に記し、自分が詠んだ歌を東宮に伝えました。
できあがった二通の文のうち、東宮が詠み頭中将が書いた方を、東宮は文箱に入れさせました。
そして、頭中将が詠み東宮が書いた方は、
「こちらはどこかで花を摘んでそれに結び付けてくれ」
とご指示なさいました。
頭中将は、東宮の
「必ず返しを頂いてこい。そのときの様子も報告してくれ」
という言葉に送られて、邸へ向かいました。
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