3/3
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
   ぱちり。  ぱちり。  碁石を碁盤に置く音が響きます。  ぱちり。 「姫、本当に今のうちにやっておきたいことはないのか?  入内したら自由に外出などできなくなるのだぞ」  ぱちり。 「ございませんわ」  ぱちり。 「物詣で(モノモウデ)とか?」  ぱちり。 「まあ、兄様、入内前に物詣でに行くには、もう日がありませんわ。  おほほほ」  ぱちり。 「そ、そうだな」  ぱちり。  ぱちり。 「そうですねえ…」  ぱちり。 「やはり何かあるか?」  ぱちり。 「ええ、強いて挙げれば…私、殿方からお文(フミ)を頂いたことがございませんの。  それが、心残りと言えましょうか」  ぱちり。 「恋文か…それこそ、東宮妃に決まった姫に贈ろうなどと思う不埒(フラチ)者は居らぬだろう」  ぱちり。 「その通りですわ。ですから、このことはお忘れ下さい。  私は日本一の幸せが約束された身ですもの、その上お文が欲しいとは、我儘が過ぎます。  東宮様にも無礼ですわ」  ぱちり。  ぱちり。  ぱちり… 「兄様、その石はそこでよろしゅうございますね?」 「えっ!?」  ぱちり。 「しまった!!」 「私の勝ち」  姫は屈託のない笑顔で勝利を喜びます。  先程の恋文の話はもう頭にない様子です。  
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!