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姫は先ず、文箱の紐を解き、お歌を読みました。
しのぶれど
色にいでにけり
わが恋は
ものや思ふと
人のとふまで
そして、草花に結び付けられていた方のお歌は、
恋すてふ
わが名はまだき
立ちにけり
人知れずこそ
思ひそめしか
でした。
どちらも、お文にはお歌だけが書かれていて、どなたから頂いたのかがわかりません。
頭中将も贈り主を教えて下さいません。
姫は、文箱のお歌を一目見て驚き、そして怪訝そうな表情をしました。
他方、草花のお歌を姫は何度も読み返し、頬を赤らめました。まるで恋する乙女のようです。
「姫、お文を見せて頂けまいか?」
「どうぞ、兄様。
あなた達も見ていいわ」
と、控えていた女房達にも許しを与えました。
姫が恋文をもらったことがないのですから、お仕えする女房達も、主人に恋文を取り次いだり、お返事を届けたり、したことがございません。
姫のお部屋は、まるでお祭りのように沸き立ちました。
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