空虚の目覚め

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行き着く場所もなく屋敷をふらつく。 しばらく歩いていると、ミーアと歩いていた時、通過しただけの広いエントランスに着いた。 大きく豪華なドアを押し、アレンは外に出た。 周りに建物は見えず、視界一面に広がる芝生が冷たい夜風に吹かれている。 星の多い夜空には大きな月が浮かんでいた。 潮の香りが冷たい風に乗って届く。 流れ着いたという海岸が近いのだろうか。 (……綺麗な月。) 草原に寝転び、月を見上げる。 風がアレンの髪を動かした。 「……アレンさん。」 「ん?あ、ミーア。」 呼ばれて振り返ると、メイド服から部屋着に着替えたミーアが立っていた。 「隣、いいですか?」 「うん。どうぞ。」 「失礼します……」 アレンの隣に腰を下ろすミーア。 「……月、綺麗ですね。」 「そうだね。」 2人で沈黙しながら月を眺める。 夜風が2人を撫でる。 「………先程、ドーア樣となさっていた話、聞かせていただいたんですが……その、記憶がないそうで……」 「………気付いたらここのベッドに寝かせられてて……自分がどこから、なんでここに来たのかもわからない。だから、しばらくここで手伝わせてもらうことになって。」 「……そうだったんですか。」 「俺は……どこの誰なんだろうね?」 ミーアはその横顔に頬を染めながら、言う。 「……記憶、戻るといいですね。」 「………ありがとう。」 もう一度2人で夜空を見上げる。 大きな丸い月と、その横に広がって輝く星の群れが草原を照らす。 「……そろそろ、休みましょうか?」 「うん、そうしようか。」 立ち上がり、屋敷に歩く2人。 「……あの、アレンさん!」 「ん?」 「………あの……その……」 呼び止め、自分も止まりながらも口ごもるミーア。 「……私、男の方とお話したこともあまりないので、よくわからないんですが……」 アレンが首を傾げる。 ミーアはたっぷり悩んだ後、小さく言った。 「……こういうのを、一目惚れって言うのかも………」 見計らったように強めの風が吹く。 「……っと……ごめん、風でよく聞こえなかった。」 ミーアは再び口を開こうとして俯く。 唇を噛み、両手を握り、顔を上げると首を振った。 「め、迷惑ですよね!ごめんなさい!失礼しますっ!」 ミーアは慌てて屋敷に駆け込んでしまった。 (…………?) そんなミーアに首を傾げながら、アレンも後に続いて屋敷に入った。
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