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少し頭にきたので、飛びつくエリアを抑え、高く杖を上げる。
「持ってきてやったんだぞ?ありがとうくらい言えないんですか、お嬢様?」
「ちょ、やめっ、返してよっ!」
小柄なエリアがいくら跳びはねても届かない位置で杖を振ってみる。
「ほら、ありがとうは?」
「ぐぬぬ……誰があんたなんかに……」
「あっそ。じゃ、帰るわ。アメリア、案内ありがとうな。」
「はいは~い。またね!」
「えっ?ちょ、ちょっと!?」
杖を持ったまま振り返り、エリアの部屋から離れる。
「ま、待ちなさいよ!ア、アメリア!助けて!」
「………一言ありがとうって言えばいい話じゃない。」
アメリアが呆れながら言うが、エリアは真面目に首を振る。
「……平民に頭を下げるなんて貴族の恥よ!」
「古い古い!平民にだってちゃんとした人もいるわ。彼、折角来てくれたんでしょ。お礼を言うのは当然じゃない。あの人が怒るのも無理ないわよ。」
「くっ……ぐぅっ……」
アメリアのまともな意見を聞き、エリアの意地が揺らぐ。
「………い、行ってくる。」
「ん、よろしい。」
エリアの背中を軽く押してやる。
一歩を踏み出してからは速く、慌ててアレンの背中を追っていった。
(アレン……ね。なかなか良さそうなやつじゃない。)
エリアの背中を見ながら、アメリアも寮の入口に歩いていく。
「待ちなさい!……待って!!」
寮の建物を出たところで呼び声に振り向くアレン。
すぐ後ろに、息を切らせて走ってくるエリアの姿があった。
「って……どうしたんですか。」
走ってきたせいか、エリアが苦しそうに胸を押さえている。
細い肩に手を置き、覗き込むアレン。
「ぜぇ……ぜぇ………何よ、気安く……触んないでよ。」
「……それは悪かったな。それじゃ。」
手を離し、歩き出すアレン。
支えを失い、倒れ込むエリア。
「おい、大丈夫か!?」
さすがに驚き、エリアを抱き起こす。
「………かかった……わね!」
アレンのポケットから杖を抜き、エリアは満足そうな表情を浮かべる。
「あ、このっ!卑怯だぞ!」
奪い返そうとするが、杖を抱えて離さないエリア。
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