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敵として対峙したはいいが、お互いに手を出せない。
マリカにいたっては剣を抜くそぶりさえ見せなかった。
「……どうしよう………」
「あ、そうそう。アレン君には言ってくれたのかな?僕のこと。」
緊張感のない声で尋ねられ、ヴァイスも杖を下ろす。
「一応……今どこにいるかはわからないけど。」
「そっか………よし、じゃあこのまま待とう!」
「ま、待ってよ!僕らは敵同士なんだよ?そんなことで………」
「お願いだよヴァイス君!こんな機会滅多にないしさ。」
周りでは相変わらず戦いが続いているのに、どこまでもマイペースなマリカ。
ついにその場に腰を下ろしてしまった。
そんな様子ではとても攻撃する気にはならない。
ヴァイスも横に座った。
「………僕ね、この黒髪のこと、ずっと恥ずかしいと思ってたんだ。」
急にしゃべり出すマリカに驚きながら、ヴァイスは耳を傾けた。
「小さい頃から目立つ髪のせいで、街を歩けば好奇の目で見られちゃって……外に出るときはずっと帽子被ってたの。他の子は綺麗な金色や茶色や桃色………太陽に光る髪が羨ましかったりね。」
辺りの喧騒が聞こえなくなった、気がした。
「そうやってただ不幸を嘆いてたある日、ゼリアルで巨大なゴーレムを剣一本で倒した平民が現れたって噂が届いてね。しかも珍しい黒い髪だなんて聞いた日には……とっても驚いたよ。」
「それで、アレンがこの学校にいると知って……」
「会いたいと思った。小さい頃から教えられた剣で、その人とぶつかってみたいって。」
腰まで伸びる黒髪を、手の平に乗せて見つめた。
「そうしたら、僕もその人から力を分けてもらえる気がした。こんな髪の色でも……強く生きれるんだって。」
言葉を切るマリカ。
幼少の記憶を辿るように、目を閉じた。
「………僕は、」
口を開いたのはヴァイスだった。
「……僕はその髪、綺麗だと思う……よ。」
しどろもどろに、しかし真っ直ぐに見つめながらヴァイスは言う。
「………ありがとう。家族以外で綺麗だなんて言ってくれたの、君が初めてだよ。」
潤んだ瞳で返され、ヴァイスは顔を赤くしながら前を向いた。
その時、前方の茂みが大きく揺れた。
「……!!アレン!?」
「んお、ヴァイス?どうだ、こっちには………」
なんともタイミングのいいことに、アレンが茂みから顔を出す。
すぐに隣のマリカに気づき、表情を引き締めた。
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