空虚の目覚め

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結構長い時間見つめ合っていた2人。 (……何だろう、この子。) 相当な美少女であることは間違いない。 じっと観察をしていた少女が、ようやく口を開いた。 「………珍しいのね。黒い髪に、黒い瞳………名前は?」 「………俺は……アレン………?」 「家名は?」 「………は?」 「なんだ、やっぱりただの平民か。」 興味なさ気に顔を離し、部屋を出ていく少女。 少女の背中を見送りながら、青年の頭に浮かぶ小さな違和感。 (……アレン………?俺の、名前………?) 少女に問われ、自然に口から出たその名前は、間違いなく自分のものである。 だが、やはりどこかに違和感がある気がした。 青年が不思議そうに首を捻っていると、先程の少女が中年の男性を連れて戻ってきた。 「目が覚めたようだね?」 「………あ、はい……えっと……俺……」 「………君は海岸に打ち上げられてたんだ。重傷だったからとりあえず手当てはさせたんだが……」 「あ、ありがとうございます………痛っ!」 苦しそうな表情に男性が顔をしかめる。 「相当ひどい怪我だった。とりあえず立てるようになれるまでここで寝ていなさい。」 痛みに耐えながら頷き、感謝の念を伝えようと口を開く。 「無理はしなくていい。………少しすれば薬が効いて痛みが落ち着くだろう。それまでは休んでいなさい。」 優しく微笑み、男性が退出する。 「……………」 少女は不思議そうにアレンを見ている。 「………あなた、帝国の人間じゃないわよね?」 (………帝国?) 質問の意味がわからない。 「………まあいいわ。」 少女も男性に続いて部屋を出ていった。 (……海岸?……そうか、あの波の音……でも、なんで?) 目を閉じて記憶を辿るも、何も出てこない。 (………とりあえず、体を休めよう………) いろいろと考えるべきことはあったが、痛みと疲労に邪魔をされ、まともに考えることができない。 青年は男性の指示通り、再び体を休めようと目を閉じた。 次に目覚めた時には夜になっていた。 窓から差していた日光が月光になっている。 (………どうだろう?) 体を起こしてみる。 若干の痛みはあったが先程と比べれば軽いものだった。 ベッドに座り、改めて周りを見る。 木で作られたベッドや机。 壁際にあるのはクローゼットだろうか。 月光がドアを照らしていた。 立ち上がり、足に異常がないことを確認し、ドアに向かっていく。
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