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ゆっくりとドアを開く。
ドアの先には廊下が走っていた。
ドアノブ、廊下の燭台、敷かれた絨毯、目に着く物全てが高級そうな物だった。
明かりの見える部屋を目指して歩く。
「………そうか。順調そうで何よりだ。」
「一刻も早く卒業して、お父様の助けになれるように頑張ります!」
「嬉しいこと言うじゃないか。しかし、若い頃というのは様々な経験を積む時期でもあるんだぞ?…………ん?起きたかね?」
先程の男性がアレンに気付く。
会釈するアレン。
「助けていただいてありがとうございました。」
丁寧に礼をするアレン。
「気にすることはない。領地内で誰かが困ってる時は迷わず助ける。これが領主たる私の仕事だからね。」
「はぁ………領主?」
男性は気取らない態度で優しく言う。
その向かいの席では、アレンに背を向ける形で先程の少女が食事を続けていた。
アレンが不思議そうな顔をしていると、男性はさらに続ける。
「アレン君というらしいね。私はドーア・ハイン・ラ・ヴェストロン。ドーアで構わない。」
初老というにはやや若い男性。
ドーアと名乗った茶髪の男性はアレンに再び口を開く。
「ところで……君はどこから来たのかね?海岸に流れ着いたところを見ると……ギッセル領やトリアード領の領民かな?」
「あ、いえ……えーっと……」
「ふむ、ではバトマーカ辺りかね?だが、潮の流れからするとなかなか珍しい話だが。」
「あの、すみません………俺………」
聞いたことのない単語を並べられ、混乱するアレン。
「うん?……どうしたのかね?」
ドーアが不思議そうに首を傾げる。
「………俺は、どこから来たんでしょうか?」
さすがに食事を続けていた少女も手を止める。
「どこから来たか………わからないのかね?」
「……はい。」
沈黙する2人。
「………驚いた。俗にいう記憶喪失というやつだな。」
「みたいです、ね。」
「ふむ、それは気の毒だな。確かにひどい傷だったが、脳に傷でも付いたのだろうか?」
ドーアは一旦グラスからワインを飲む。
「浜辺には君以外何もなかった。身につけていた服以外、手がかりになりそうなものは何も。」
「………そう、ですか。」
残念そうに顔を伏せるアレン。
「これからどうするのかね?」
正直、どうすると問われても何も答えられない。
自分だって何が起きているのかわからないのだ。
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