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そんな状況をよそに、5時間目の開始を告げるチャイムが廊下に響いた。
あたし達の間にはしんとした空気が流れている。
すると綾千代はいきなりあたしの腕を掴み、どこかに向かい始めた。
その手の力は思ってた以上に強く、初めて綾千代が男なのだと感じた。
「い、痛いよ!綾千代!」
と訴えても、無言を決め込みどんどん歩いていく。
授業が始まった事もあり、廊下に人影はない。
綾千代はそのまま女子トイレに入り、ドアから一番離れた個室にあたしを入れ、自身も入り鍵を閉めた。
急に密室に二人きりになった事に心臓が一気に収縮を始める。
ドキドキが凄い音を立てて押し寄せて来ていた。
女子トイレの個室の広さなんてたかが知れてる。
ドアは綾千代で塞がれている。逃げる事は容易じゃない。
「鞠緒さん…。」
あたしの恐怖心を知ってか知らずか、綾千代はあたしの頬に手を伸ばした。いきなり触れた手の感触に、思わずビクッと体が強張ってしまった。
綾千代は素早く手を離し、再び気まずい雰囲気が流れてしまった。
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