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「ただいま~。」
玄関の方から声がした。父さんが帰って来たらしい。神の助けだ!
あたしは一目散に玄関に向かった。
「お帰り、父さん。鞄預かるよ。」
「珍しいな、鞠緒が出迎えとは。何かあったのか?」
普段そんな事しないあたしが、今日に限って出迎えしている事で、何か感じとったようだ。
父さんは、昔から冷静沈着で、頭の回転もいい。さすが大学教授の職に就いてるだけの事はあると凄く尊敬している。ただ今は、全て見透かされてるようで、目を見る事が出来なかった。
「何でもないよ!たまにはいいじゃん?」
無理矢理笑顔を作って見せた。自分でもひきつっているのが分かる。
ポンッ…。
「何かあったら言いなさい。相談にのるから。」
あたしの頭を撫で、父さんはネクタイを緩めながらリビングへ向かって行った。
『何かあったら…』
きっと父さんはあたしが言いたい事があるのを薄々気付いてる。だけど、問い質すような事は今の今まで一度もなかった。
本当は言いたくて堪らない。でも、言ってはいけない気がして、それ以上何も言えず、トボトボとリビングへ戻った。
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