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――何かが欠けまくっている景色だった。
歩いて歩いて歩いて、青年はぼんやりと考え事をしていた。
まず、二、三時間程度じゃ餓死しない身体に感謝したいな。さらに言うと普通の人間よりは多少バイタリティに溢れた《獣人》でよかった。
でなければ、とっくに自分も残りの二人のように愚痴を連ねていたことだろう。と。
紹介から済ませておこうか。
青年の他、残りの二人は《ノーコン》と《寝るか喰うか》である。よろしくしてやってくれ。
《ノーコン》の方は、この異質となった世界、ガラス張りのような大地の上を意味も無く抜き足差し足で歩き、《寝るか喰うか》は寝袋に包まれて、獣人である青年の肩に担がれた手荷物の状態であった。
つまり、小言は彼の至近距離から発せられている。
「アニジャ、」
と、これは《ノーコン》の声。
「空腹ままならないヨ。流石はワタシも危機感おぼえるネ。飛んで火に入るファイヤーフライが夏のうちに死ぬネ。今のワタシたち、それヨ」
《ノーコン》に続けて、《寝るか喰うか》が、
「しまいにはのぅ、レッドの尻尾までならば食うても詮無い詮無い。タンパク質じゃしぃ」
その二人が口々に愚痴……と言うよりは両方とも常識から外れた戯言を言っているわけで、片方にレッドと呼ばれた純白獣人の青年、ウィルフレッドは、口も眉も折り曲げながら律儀な返答をしている。
「リアン、別に俺らが自分から飛び込んだわけじゃねえし、蛍が儚い虫だってのは知ってる。だからあんなに美しいんだ。あとな、ピアドラ、ふざけんな。自分の尻尾から食ってくれ」
まあ、結局は仲が良さそうな感じだ。
三人はそれぞれ、一般基準で見れば際立った風体をしていて、味気ない空間を歩き続けていた。
ウィルフレッドは青年。しかし、先述申し上げたとおり、真っ白な体毛が見事な獣人であり、パッと見ではスレンダーな犬を彷彿とさせる。たくましい上半身を露呈した身軽な服装で、獣人でなければ露出狂だが、獣人なので様になったハンターにしっかり見える。
《ノーコン》ことリアンの外見は、説明が非常に簡単だ。くノ一の女の子である。特徴を言えば、身長がかなり低く、その身体には不釣合いとなる大きな手裏剣を腰から下げていた。んで、気心が知れた連中の他には誰もいないと言うのに、狐を模した御面で素顔を隠して歩いていた。そこらへんは本人の気分次第。
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