天使の柩 市川カナタ篇

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 僕にはこの世に友達が一人だけいる。  先月で僕の年齢は十四になり、それを伝えた後から、友達が新しい『罠』の技術をあれこれ教えてくれるようになった。  友達の名前は、『トラッシュ』。  『トラッシュ』が言うには、その生い立ちの始まりから今まで、彼(直接会った事はないが、文体から男性のような気がするので『彼』と呼んでいる)にとっての世界はゴミ溜めで、ゴミ溜めに生きる彼も『自分もすでにゴミと同じだから、トラッシュと名乗っている』のだそうだ。  トラッシュはいつも手紙で連絡を取ってくる。  最初はニューヨークから。  その次はロンドン。  最近来た数通のものは中東からだった。  トラッシュが僕に教えてくれる技術は、机の上で考えられたものではなく実際に彼が行った『結果』を、忠実に再現するためのものだ。  ───例えば、僕が今年の春に仕掛けた『罠』は、‘青酸カリゲーム’という、ずいぶん昔に世間を賑わした事件の模倣だった。  必要な薬品、道具については自分で調達した。トラッシュが作り上げたルートを利用すれば、中学生の僕でも簡単に犯罪に転用可能なツールを仕入れる事ができる。  いつもは不特定多数の誰かを標的にするのがトラッシュの流儀だが、この‘青酸カリゲーム’は『役人をターゲットにする事』というルールがあった。  そこで僕は、このところ不正献金や贈収賄事件で世間に名の知れ渡ったとある県と、市の役人に『罠』を仕掛けることにした。  ただ、‘青酸カリゲーム’のような『罠』は僕が一人ですべての仕掛けを構築できるしろものでは無い。  僕が自分で青酸カリを役人たちに飲ませれば、当然容疑者として名前がすぐに上がってしまうからだ。  直接では無く、かつ確実に『罠』を仕掛けられるように、僕はひとつのネットワークを確立していた。  そのネットワークを、僕は『天使の柩』と呼んでいる。
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