序章

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  「よくここだとわかりましたね」  野本が後ろから声をかけた。 「車でお出かけされていなかったので。それにこの道、街から来た方なら思わず登りたくなるような道でしたでしょう?」  野本は苦笑した。 「お見通しでしたか」 「ええ、まあ。ですが経験からでして。私もそうでしたから」  前で話している事を意識してか、内藤は先程よりは大きめな声で話している。 「それに人はどうしても今よりも高い所に行きたいと思うもの、なんでしょう?」  なるほど、上手く話をまとめてくるものだ、と、野本は改めて先を歩く男に感心した。内藤は野本自身のブログの言葉を引用したに過ぎないのだ。  内藤の歳は自分よりはほんの少し若いだろうか。張りのある体付きや声にそう思うのだが、落ち着きや物腰から察するならば、もしかすると自分より年上なのかもしれない。そんな事をちらりと考えながら野本は言葉を返した。 「一本取られた感を否めませんね」 「ハハハ、失礼しました。いや、悪気はありませんから。お気に障りましたか?」 「大丈夫ですよ」  事実、野本は内藤の引用が嫌なわけではい。寧ろここちよいくらいであった。  二週間前に初めて内藤に会った時も、野本は彼の持つこのムードに惹かれたがゆえに、この地に来る事を決意したようなものだったとも言えるのである。  
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