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肉体は灰になり、骨もそのほとんどが形を無くす。そしてその骨を二人一組になり、箸を使って骨壺に納めていく。そして最後に喉の骨を一番上に乗せる。それは丁度声帯の部分で、あたかも禅を組んでいる仏の様で、そのために男性の場合、それは喉仏と呼ばれるそうだ。
それを見て、ようやく、もうどうしたって取り返しようがないのだと気付かされる。その人の遺体を見た時も、そのうち目を覚ますんじゃないかと何度も思った。首までかけられた布団の下に遺体を腐らせないための巨大なドライアイスが置かれていても、まだ生き返ってくれるんじゃないかと期待していた。
棺桶に移す時、遺体に触れるとドライアイスのせいでとても冷たく、固かった。それでも目を覚ましてくれるのではと思っていた。
所は寺に移り、住職がお経を始めると、ついに涙を落とし死を認め始める。早く起きて、皆を見て笑って欲しい。なんて早とちりをしてしまったんだと笑い合いたい。そう強く願った。
やがて火葬場へ。観音開きの黒い扉の向こうに棺桶を押し込む。金属質の重い音と共に扉は閉じる。
扉の向こうから轟々と炎の音が届き、向こう側がもう自分の手が届かない世界となったことを知った。この音と共に無理矢理にもうどうしようもないと気付かされる。
別室に用意されていた食事の席で皆々談笑していた。その誰もを疎ましく思った。そのうちの何人かが声をかけてきたのを覚えている。あまり気に負わない方がいいだとか、故人は笑顔を望んでいるだとか。そのどの言葉も空っぽに響いていた。
先祖代々の墓に納骨し、そして全てが終わった。四十九日の法要の日付を連絡し、そこで解散となる。
空には灰色の雲が昏々と立ち込めていた。
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