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……チッ、チッ、チッ…。
静寂の中で響く時計の鼓動。
それがちょうど、午前0時の鐘が鳴った頃運命の時が来た。
外では霧雨が音も無く零れる中、流羅(ルーラ)家の主、徳(ダツ)は家のシンボルとも言える大木の下で我が子の誕生をいまかいまかと待っていた。
眠気と戦っていた徳の脳裏をつんざくような泣き声が聞こえたのはそれからまもなくだった。
バタンッ!と慌てて家の扉を開け、彼は木の廊下を全力疾走で駆け抜ける。
念願の第1子の誕生に、彼は喜びを隠してなどいられないというように妻である輝希(キキ)と子どもに会いに行く。
「わしの…わしの子どもはどこに!?」
その呼びかけにぐったりしている輝希はうっすらと目を開き、その横で付き人に揺らされている揺りかごを指差す。
そこにはまさに産まれたばかりの子どもであろうという赤ちゃんが眠っていた。
その愛らしい顔立ちに、徳は震える手で思わず赤ちゃんを抱き上げた。
「あなた…、その子は女の子です。名前はどうしますの?」
静かな掠れた声で輝希は徳に問いかける。
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