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痛いくらいの沈黙を破るように、俺の右に居た男が動いた。拳銃に手を伸ばし、弾を1発、装填する。
バーテンダーのような華麗な手つきで、弾倉を回す。そして、リボルバーを机の上で回転させた。
黒い鉄の塊がコマの様に回って、ゆっくりと動きを止める。絶望色をした銃口が、俺に狙いを定めた。
男が乱暴な動作で俺にリボルバーを握らせ、引金に手を掛させた。銃口をこめかみに固定される。
何かの冗談だ。でなきゃ、夢に違いない。
それを否定する、手に握らされた銃のずっしりとした重み。引金の固さ。目の前が暗くなる。
中空を睨んだまま、力を込めた。
ガチン!
頭蓋に感じた振動はほんの少しだった。それだけで終わり。拍子抜けする程の軽さは、逆に言えば、まだ続く悪夢を感じさせた。
痩せた男に銃が渡される。相手の狼狽と言ったらひどいもので、人の声ともつかないような奇声を上げて、身体中で逃げようともがき暴れ出した。男の体をくくりつけられた椅子がガタガタと、コンクリートとタップダンスを踊っている。
結局左右の男に抑え込まれ、引金が引かれた。
ガチン!
無機質な音が響く。男の口から涎が垂れた。俺も、ああなるのか?
もう一度、奈落の口がこちらを向いた。やけくその様に引金を引く。
ガチン!
拳銃を握る為に自由になった手で、ネクタイを緩めた。手が震えて上手く出来ずに、左右に乱暴に降られたネクタイが首の後ろを摩擦した。
夢だ。
これは夢だ。
でなきゃこんな事がこの日本で許される筈がない。
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