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秋が踏み込もうとした瞬間、それに合わせて女の足が動く。
微笑を浮かべている姿を見れば隙だらけの様に見えるが、その実一切の隙を見せない。相当の実力者であり、実戦経験が豊富である事が見て取れる。
もし射手の仲間。殺し屋だとすれば、そこに殺人経験がプラスされるだろう。
秋は今まで様々な相手と戦って来たが、秋のそれは一線を超えていな強さである。それは凛も同様であり、相手を制圧する為の暴力であるのに対して、彼女の戦いは相手の息の根を止める攻撃性である。そこに手加減や躊躇などない。
(……殺される前に相手を倒す)
秋は滑らせる様に足を出した。それは凛の見せるすり足に近い動きであり、筋肉の反応で動きを観察していた女はその見たことのない体術に一歩遅れてしまう。
左掌底が相手の肩に当たり、態勢の崩れた顔目掛けてアッパーを打ち込む。
女の顔から笑みが消え、右アッパーを避けるとその手を掴み、関節技に移行する。
女が背後に回り右腕を締め上げ様とするのだが、秋はすかさずバンを壁蹴りして無理やり体位を変える。
掴んでいられなくなった女は手を離すと、再び秋と対峙した。
「軍人、いや……もと軍人だろ」
秋の問い掛けに女は何も答えないが、腕を掴んでから背後に回り込む体の動かし方に見覚えがあった。
本当ならば膝裏を蹴って無理やり跪かせるか、頭を掴んで地面に押し倒すのが派生技なのだが、流石にガードレールとバンとの狭いスペースではそこまで動けない。
「ちょっと、本当に何者? 狙撃は避けるし、私と互角とか……もしやニュータイプね」
「なっ」
秋が間の抜けた声を出した。車の窓が下がったと思うと、そこから腕が伸びる。
そしてその手に持った銃を突きつけられた。
「αは既に脱出したわ。さっさと殺して私達も逃げるわよ」
秋は動けない。下手に動けばそれに反応して、相手の人差し指が引き金を引いてしまう恐れがある。
相手の顔や手が見れれば撃つタイミングが予測できるのだが、完全に真横から突きつけられているのでそれも出来ない。
「……なあ、本当にヤルの?」
「もう前金も貰ってる。ここで見逃してもどのみち他のに殺されるわ」
「だそうだ。ゴメンな? 死んでくれ」
金髪の女は申し訳なさそうに笑った。
そして、一発の銃声が響いた。
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