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人目を忍んで学校を抜け出した教師と生徒は、揃って喫茶店へと入って行った。
女性の方は煌びやかな金髪を靡かせ、英語教師だと自己申告しなければ誰も彼女が先生をしているとは思わないだろう。
かたや男子生徒こと秋は制服姿なので、日中に街中を彷徨くのはパトロール警官のご厄介になってしまう。
そこで二人が向かったのが喫茶店peaceである。
店の扉が開閉すると、それを知らせる鐘の音が店内に響く。
「いらっしゃ……って、秋!? 学校は!? やそ、れよりもその顔どうしたのよ! 怪我してるじゃない」
本来ならば五時限目の授業の最中なのだが、よもや帰ってくるとは思っていなかった薫は、その様子を見て困惑してしまう。
「この先生とちょっと大事な話があるから、終わったら学校に戻るよ」
秋は手短に告げると、そのまま店の奥の階段へと向かって行く。
キャサリンは何か挨拶しようと口を開きかけるのだが、早く来いという秋の視線と無言の圧力に従い、薫に会釈をして二階へと上がる。
自分の部屋へ通した秋はキャサリンを机の椅子に座らせると、自分は唯一の出入り口である扉に寄りかかった。
「単刀直入に訊く。お前は誰だ」
片言の日本語と明るく陽気に振舞う英語教師であるキャサリン・ベイローズなる人物は今や虚像であり、秋の目に映る彼女は流暢な日本語を話す事ができ、無風だったとは言え十メートル以上も離れた距離から車のサイドミラーを打ち抜く技術は、明らかに何らかの訓練を受けている。
「私はジーナ・クエント。元英国対テロ捜査チームに所属」
「イギリスの……対テロ組織、だと」
人生が大きく変わることとなった事件が自然とフラッシュバックしてしまい、その記憶が急速なストレスとなって秋の体を蝕もうとする。
じわじわとした鈍痛を頭部に感じた秋は、そっとポケットに手を伸ばすとタブレットミント菓子を適当に口へ含む。
「お前、もしやあの日に……」
「ええそうよ。私達のチームはあの現場に居た」
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